Nobody’s Place/Nowhere’s Map

2018年6月20日〜26日
アテネ国立美術大学、アテネ市内各所

>>プロジェクトのカタログ(英語)
>>展覧会チラシ(英語)
>>展覧会チラシ(ギリシャ語)

 人類学研究者のイサベル・グティエレス・サンチェス、建築家/アーティストのホルヘ・マルティン・ガルシア、演出家の坂田ゆかりの3名は、アテネで出会った24人のアーティスト、キュレーター、ギャラリストたちと共に『Nobody’s Place/Nowhere’s Map』という参加型アートプロジェクトを企てた。参加者は公募ではなく、Facebookグループを通じてあらかじめ送信された芸術的声明に賛同するメンバーにのみ限定された。声明文の中には、古代ギリシャ神話の英雄オデュッセイアが「Nobody(誰でもない者)」を名乗ることによって人喰いの怪物と戦ったエピソードが暗示されたが、この怪物とは、ギリシャ危機といわれた国の財政破綻、その後、近隣のEU諸国から援助と共に課されることとなった過酷な緊縮財政、大量の移民・難民の流入が招いた社会の混乱など、様々に形を変えながら10年を経過した現在も続く慢性的な「危機」を象徴している。このような今日的社会環境と戦うコレクティブな主体者、言い換えれば「私たち」の変容し続ける関係を敢えて「Nobody」と呼び、その現在地を示す地図を作成することがプロジェクトの使命だった。

 各参加者にはいくつかのルールが与えられた。まず、参加者自身が前述の声明文の中から1つの単語を選び、その単語から想起されるアテネ市内のある場所を選択し、待ち合わせ時間を指定する。それに対し、サンチェス、ガルシア、坂田から成るチームは、 Google Mapを頼りに招待された場所に行き、実際に参加者と出会い、選ばれた単語やその場所にまつわる会話をする。会話は全て録音し、風景はビデオによって記録した。話された内容は、トレーシングペーパーにプリントした地図と共に平面上で資料のように構成し、読解可能な彫刻作品としてギャラリー空間に展示した。また、事後にはインタビューの会話内容の全文を展覧会のカタログにアーカイヴとして収録した。

 一般的に地図というメディアは、縮尺や地図記号などの独特の規則性に従って位置情報を視覚的に伝えることができる。その普遍性故に、地理学、気象学などの自然科学のみならず、人類学を含む人文科学や、公共交通、観光、建築などの分野においても重要な役割を果たしてきた。しかし、本プロジェクトでは地図としての機能の充実よりも「地図を作りたい」という人々の欲求に光を当て、その内部に哲学的な存在の問いを見出す。―私とは何者か、どこに生き、誰と出会い、どこへ向かうのか。また「地図を作る」という行為そのものの内に政治的な問いを見出す。―地図に含まれる情報は誰が決めるのか、何の目的のために、それらはどんな言語や記号で示され、誰の興味が反映されるのか。国際協働制作『Nobody’s Place/Nowhere’s Map』はこれらの問いを鑑賞者に投げかけながら、逆説的にアテネという唯一の場所の現在形を映し出した。

 本プロジェクトは、人々が知り尽くした地図というメディアを改めてパフォーマティヴに再定義し、「危機と戦う術」として空間に立ち上げ、眺め、議論するためのものである。全てのプロセスは、人々の経験・思考・情報を交換し、集積可能にする「会話」というコミュニケーションによって支えられている。この創造的な実験を継続していくために、プロジェクトはふさわしい場所と協力者を求めている。

【構想】
イサベル・グティエレス
ホルヘ・マルティン
坂田ゆかり

【コーディネート】
ジョージ・スタマタキス

【協働制作】
阿部崇子
スプリドゥラ・アシマキ
アラ・ボゴスィアン
ラフィカ・シャウィース
コンスタンティナ・イコノモ
トーマス・ガラトス
イサベル・グティエレス
スティリオス・カペタナキス
マリア・カラキツ
コンスタンティノス・コツィス
オデット・クズ
ガリニ・ラザニ
イサベラ・マルガラ
ホルヘ・マルティン
タティアナ・マイ・カレルギ
ルイーザ・パパゲル
カタリナ・パパズィスィ
坂田ゆかり
クリスティナ・スグロミティ
ジョージ・スタマタキス
マリアンナ・ステファニツィ
エレニ・ツァマディア
アントニス・ヴァズィラキス
ヴァリャ・パパスタモ